建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

13回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その②

■H25年5月13日

13回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その②
     ー専門家はどう振舞うべきかー

<理科系的な考え方は社会において有効か?>
 
(他にも多くの人がそうだったと思いますが・・)民主党政権が出来、鳩山首相が誕生した時、理科系出身の首相ということで、これからは打算や利害調整にとらわれない政治判断がなされるだろうと期待していた。結果は御存知のとおりで、週刊誌には「日本に理科系政治家は不向きなのでは?」という記事も見かけた。私はそうではなく、「彼ら(というのは管首相も含めて)のほうが理科系思考については落第生なのだ!」と言いたい!!彼らの思考は全く理科系とは逆で「有権者に受け入れられる」ことを先に考えていたんですね。客観的にではなく、空気を読んでから自分の態度を決めていたのでしょう。
 武田邦彦氏はこういうふうに表現しています。
「それは
「事実→解析→意見→感情」と進むのがまともで誠意ある道筋ですが、識者といわれる人の言動をみると「周囲→損得→意見→事実」となっていて、それを一般の人に言うと、一般の人が「周囲→感情→意見」になっているので受け入れやすいという識者の作戦のように見えます。」
 ちなみに武田氏が「周囲の空気を読まずに発言する」例をひとつ。
前回述べたように氏は「右より」人間なので中国のことをあまり好きではなさそうですが、「飛来するPM2.5(氏はそうではなくて通常のスモッグでは?と予想している)は巷で言うほど大騒ぎする必要は無く、有害物質ではあるが、日本に来るまで拡散するし、粒子の大きさからして濃度の高い場所でもマスクで十分対応できる」と指摘すると同時に「それより毎年飛来する黄砂(弱アルカリ性)が日本の田畑や海を豊かにしてくれている事は重要である。
」と意見しています。理科系的に判断するとはこういうことです。

<定性的な議論をやめて定量的議論を!>
 
要はものを考えるに当たって最初に用意すべき「事実→解析」のところを多くの人々はサボってるわけですね。この最初に行うべきところを数字を使って実証できるのが理科系人間の必要とされる理由だと思います。「定量」をせずに「定性」的な理屈をこねると何だって言えます。
 例えば
「太陽エネルギーは無限にある」→「従ってこれからの電力はは太陽エネルギーを主とすべきだ」
 
と言われるとなんとなく「ああそうか・・」と思ってしまいます。しかし、同じ所から定量的に」話を始めると全く異なる展開になります。
 
武田邦彦著「偽善エネルギー」幻冬社より抜粋)
「石油を燃やして高圧の蒸気をつくり、それで電気を起こしたり蒸気機関を動かしたりすると、そのエネルギー密度は、1㎡当り約3万キロワットです。(中略)快晴で最も太陽が高いときのエネルギー密度が、その3万分の1の1キロワットであることを考えると、石油を燃やして作った蒸気がものすごいエネルギー密度を持っていることがわかります。」
 つまり
石油の焚き火1㎡分のエネルギーを太陽電池パネル(現在効率は40%未満であるが100%エネルギーを取り出せたとしても)では3万㎡(3ヘクタール)必要なわけこうすれば太陽電池パネルは補助的にしか使えないことは明確です。TVなどではこういう基礎データを知らずに話をしている人間が実に多い。(実際、氏は佐世保市で市のエネルギーをすべて太陽光でまかなえば空地がほとんどなくなることを実証している)。

<数字を使ってウソを言う人もいるが・・・>
 例えば民主党の前原氏(2011年当時外務大臣)がTPP参加問題について以下の様な論理で発言しました。(「日本のGDPに占める第一次産業の割合は1.5%(しかない)」+「しかも農民の平均年齢は65歳である(ので将来性は見込めないにもかかわらず)」)→「1.5%を守るために98.5%を犠牲にしてよいのか?(よいわけはない)」
 この発言で「うんうん」と納得した方もおられると思います。しかしながらこれはウソでない数字を使ってウソを言う典型かと思います。ただ数字のよいところは、ウソ(もしかして無知や誤解かもしれないが)がわかる人にはすぐにわかる。それによって本人の資質・能力も明らかになるところです。
 
この発言の誤りは至るところで指摘されています。
①:GDPにおける一次産業の割合(1.5%)が日本は低いと言いたいようであるが、あれだけ農業を大事にしているアメリカでさえ1.1%で何と日本より低い。農業国のオーストラリアでも3.9%!また一次産業から派生する産業全体(農漁業+食品産業+関連流通業+飲食店)でGDP比9.6%に対して自動車を中心とする輸送機器産業では2.7%しかない!
②:農民の平均年齢が65歳ということで農業は20年もすれば消滅するというイメージを想起させたいと思われるが、あくまで頭の数の平均である。概ね若い人は「担い手」として大量生産しているが、高齢者は「自給的」に少量の生産をする。ということは一人一人の生産高を按分して平均をとれば、もっと若くなるはず。
③TPPに参加した場合に見込めるGDPの増加分は内閣府の試算で0.3兆円(GDP全体で500兆円としてわずか0.06%!)である。一方一次産業は最大0.3兆円の減少となるので一次産業の全生産高を8兆円として3.75%の減少となる。犠牲になるのはどっち?
 
むちゃくちゃですねー。ただ私も前原発言をニュースで聞いた時点で、ウソを見抜けたわけではありません。なので、物事を決める場面には、そのベースとなる情報を理解している専門家がいて、しかも一定の発言権を持っているということが必要ということですね。

<シロウトが責任を負う仕組はいっぱいある!>
 
世の中には専門家がアドバイスを行いながら、シロウトが最終決定せざるを得ない仕組みがいっぱいあります。①原子力委員会の諮問に基づく原子力政策の決定などはその典型ですし、私が関っているものでは、②「岸和田丘陵地区整備計画」という事業において、市や専門家のアドバイスにより、住民組織である役員会が物事を決定していく仕組みを地権者として経験しています。
 ①については原発事故で失敗が明らかになりましたし、②についてもお世辞にも成果が上がっているとは言えない状態です。しっかりとした専門家がいるのになぜ機能しないのか?・・・・・というのが次回のお話です。