建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

14回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その③(最終回)

■H25年5月14日

14回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その③(最終回)
     ー「ジェネラリスト」が求められる!ー

アポロ13号を救った若手技術者>
 
1970年4月、3度目の月面着陸を目指して月に向かっていたアポロ13号は電気のショートによる酸素タンクの爆発により、ミッションを中断して地球へ帰還することを余儀なくされた。映画や書籍にもなってるので御存知の方も多いと思いますが、この時克服すべき様々な問題の中でとりわけ深刻だったのが、地球に到達するまでの電力の不足だった。これを解決するための責任者に任命されたのは、当時弱冠27歳だった電気技術者のジョン・アーロン本来は「電気・環境・消耗品担当」だった。実はジョンは担当以外のことにもいろいろ興味を持ち、あちこち首を突っ込んで、豊富な知識を蓄えていた。また上司もそういう彼の姿勢をちゃんと把握していた。・・ここが今回のポイントですね!彼は各分野の担当から電力ニーズを聞きだす一方、電力の残量を把握し、(でもそれでは足りない!)電力を節約するためのアイデアを出し、(例えば、飛行時間を短くするためにどうすればよいかというアイデア)飛行士を何とか帰還させるための道筋を作り上げた。
 これは彼が、一分野における
「スペシャリスト」を越えて、各分野からの要望に対して議論するだけの知識を有した「ゼネラリスト」であったから遂行できた「ナイスジョブ!」だった。お決まりのパターンではない、未経験の事業を成功させるためにはこうした人物が必要なんですね。

<行き詰まりの「岸和田丘陵地区整備事業」>
 さて一方・・、前回少しお話しした、私の関わっている「岸和田丘陵地区整備事業」のお話・・岸和田市の中山間地(ほとんどは山林・農地でしめられる)150haを「都市整備エリア(土地区画整理事業)」「農整備ゾーン(土地改良事業)」「自然活用エリア(事業手法未定)」に分け、三つのエリアを連携させて土地活用を図ろうと言うものです。と書くとすごく面白そうな話なのですが、今現在、実に通り一遍を絵に描いたような無味乾燥な中身が進行中です。なぜそうなるのか?私が参加している「農整備ゾーン(土地改良事業)」の方から見て行きます。
 今回の「土地改良事業」は国庫補助事業であり、決められた事業費負担があって国:50%、大阪府:15%、岸和田市:25%、地元住民10%です。多分お決まりのパターンで、府が国から託された事業推進役として登場しており、多分「土地改良村」の外郭団体みたいなところが造成基本計画図を描いてきていますが、これが全国一律の標準設計パターンをはんこで押したような気の入っていない図面でありまして、一目見たなり「これが国土を設計する図面か?」と目を疑いました。とにかく地形の特性を考えてない、地域の将来像に対する構想がない等等。
 この結果は体制的には無理もない話で、設計者は地元に特に思い入れがあるわけでも無く、「事業が認可される」のが目的に仕事をしているだけということ。であれば地元のことをよく知っていて、市の将来のことを一番考えているだろう「市」(この場合は農林水産課)が構想を練って、設計者に条件を出せばよいと思うのですが、多分費用負担の分担に伴う上下の関係があって、多分そういうことはしない流儀?なのでしょう。早い話が「意欲的な事業はしにくい」体制がまず出来ているわけです。
(*「多分」が多いのは決定のプロセスを地権者は知らされていないからです。)
 3つのゾーンを総合的に議論する専門家委員会もあって、有益な事例紹介やものの考え方の提示しており、地元がそれを参考に自分ら独自の考えを共有すれば、打開不可能ではありません。しかしながら、<その①>で述べたように地権者全員が(250人いる!)「ベースとなる共通の意識」をもつことはまず不可能、従って<その②>で述べたように一般の人はどうしても「周囲→感情→意見」という思考をするので、「理屈は通っていて、意欲的であるがすぐに納得できない意見」が賛同を得るのはほぼ不可能です。なので私がいくらこれを何とかこれを打開しようと意見を言っても無視されるだけなわけ。
 でも日本全国にはこれに類する成功したプロジェクトは沢山あります。例えば・・・

<石川県羽咋市農林水産課高野誠鮮氏の仕事>
 高野氏ローマ法王に米を食べさせた男」(高野誠鮮著 講談社です。彼1人で羽咋市神子原地区の村おこしをやってしまいました。イベントを開催し、プロモーションを行い(「神子原米」はローマ法王の献上品になることで一躍有名になった)、ブランド化を成功させ、農家を自立させました。高野氏は意思決定において会議という方法は取りませんでした。自分で責任を持ち、上司には「事後報告」という形をとりました。(理解のある上司の存在も重要でした。)彼は「ジェネラリスト」そのものだったわけです。もちろん最初はすべての農家が反対の立場でした。それを動かしたのは「構想」と「戦略」です。ここにこのシリーズの答えがあります。実はこの本を「読んでください」と岸和田市農林水産課の担当者に進呈してあって、どう実行してくれるかと期待しています。とにかく市の職員が一番「ジェネラリスト」になれる能力と立場を持っているはずなのです。「とにかく実行第一です!」と申し上げました。
 
●まとめ:どうしたら大勢の人の総意によって理屈の通った結論にたどり着けるか?
①なるべく少人数の「ゼネラリスト」がものを決定し、実行できる体制が必要です。「皆の意見を聞いてひとつにまとめる」のは不可能ですし、高いレベルの結果には結びつきません。
②彼らは皆を説得するだけの「定量的思考」による客観的で「筋の通った構想」を持たないといけません。(骨の折れる努力ですが)
③「構想」を実行するためにはすぐれた「戦略」が必要です。これによってその他大多数の人が、複雑な理屈を理解しないでも、共通の思いを持てる様に事を運ぶ必要があります。その上で始めて「総意」が形成されます。
このプロセスを得ない結論は単に空気を読んでなんとなく出来たものであり、本当の「総意」ではない!!
 以上がこのシリーズの副題に対する私の結論です。 

武田邦彦氏はすぐれた「ジェネラリスト」>
 
2011年3月11日に福島で原子力発電所の事故が発生した直後の3月12日から武田氏は市民に向かって事故に関する情報を発信し続けました。「放射性物質は塵のようなものなので風向きに乗って移動する」「流出した放射性物質の予想量とそれに対する対策」「環境が汚染されていく過程の予想」これらのことを手に入るデータを基に計算して、政府やマスコミの情報よりずっと早くアナウンスし続けました。
 武田氏の専門は資源材料学です。原子炉が専門ではありませんが、原子力に関った経験から大つかみの事実を把握できる
「ジェネラリスト」だったわけです。「スペシャリスト」としてノーベル賞をもらえる学者ではない。(と思いますが?・・)しかし「理屈に合った客観的な結論」を得るためには「スペシャリスト」よりも「ジェネラリスト」が必要なのです。
 武田氏の
「ジェネラリスト」ぶりを示すお話を厳選して紹介し、今回のシリーズの最後を締めたいと思います。(最後までくだけた所の無い文章になっちゃったなー・・スミマセン)

①「タバコを吸うと癌になる」という表現は誇張しすぎで、「外を歩くと交通事故に合う」といってるようなものだ。として、実際どの程度危険性が増すのかを定量的に詳しく説明しています。(武田氏のホームページにはこれに関するいろいろな話が掲載されています。)

②「エコロジー幻想」(青春出版社)の中の一説「愛用品の5原則」は高校の国語教科書に取り上げられています。

YOUTUBEガリレオ放談第30・31回ー油団の不思議ー」では、「油団」のしくみを解明しながら、昔のものはなぜ長持ちするか?を考えています。建築関係者には興味深く見ていただけると思います。