建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

12回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その①

■H25年5月9日

12回目<僕が武田邦彦氏に拍手をする理由>その①
     ー理屈で武装された愛情ー

 このシリーズはあまりに真面目な話なので文章を面白く書くのはあきらめました。以下ずっとそんな調子なので、世の中のありかたを真剣に考えたい人のみお読み下さい。

   
<例えば「朱鷺(トキ)」の話>
 
武田氏は今、放鳥され野生化が期待されているトキを見て、「かわいそうだ」と言う。曰く「今の日本の自然環境のキャパシテイーではもはやトキのような大型の鳥類が生息するのは不可能だ。事実、トキは明治時代に実質的に絶滅していた。」
 「うそや
?トキが絶滅したのは、農薬が原因ではなかったの??そう教えられたはず!と思い、事実関係を調べると、何とこれは真実で「日本で化学農薬が使用されるようになったのは1950年代以降であり、その頃にはすでに20羽ほどにまで個体数を減らしていた」・・・・えええっ私の知識と違う!
 野生のトキが絶滅した理由は「農薬による環境汚染」ではなく、もっと大きな、「社会の変化そのもの」という視野で見なければいけなかったわけです。この放鳥の様子を武田氏は
「ゆがんだ現代の日本社会を象徴しているよう」と嘆きます。
 もう少し深く考えると、「現在の田畑は農薬漬けでありトキが生息できる環境ではない」というのは事実でしょうし、「トキは絶滅した」というのは既知の事実ですが、それらをなんとなくつなぎ合わせた「トキは農薬が原因で絶滅した」と間違った情報をなぜか私たちは信じさせられていたわけです。多分自然環境を保護したい人のプロパガンダとしては都合のよい言い回しだったのでしょうが、明らかに真実ではありません。たぶんトキの野生化はうまく行かず、予算の無駄使いになるでしょう。
 このような、先入観を持たない科学者の広い視野で客観的に見たときにどういう結論が導かれるかかという事実に驚かされるのが武田氏の魅力です。
 よく知られた
環境問題はなぜウソがまかり通るのかはそういう魅力にあふれた本です。心のなかでモヤモヤしてたものが、「ああこれが真実だったんだ!」とすっきりします。(ちなみにこの本を攻撃する本も読みました。枝葉末節の誤りを指摘してましたが、本質がゆらぐような批判は見当たりませんでした。)ただ氏の欠点を指摘しますと、「話を面白くしようとするサービス精神が強すぎて、しばしば勇み足をしてしまう」ことですね。そういうことをしなくても筋の通った説明だけで十分面白いのですが。ただ、結論が常識と異なる場合が多いので、読むほうもちゃんと理屈を追って行かないといけません。言葉ツラだけ追っていると、「武田の意見はころころ変わる」という批判をしてしまうことになります。(実際この手の意見はよく見かけます)
 
<筋の通ったすばらしい議論>

 その典型例が放射線被曝基準についての「とある対談」(YOUTUBE:司会は宮崎哲哉、対談相手は中村仁信 阪大名誉教授http://www.youtube.com/watch?v=b24ulh6BTM0です。
 武田氏は「1ミリシーベルト/年を守るべき」という立場」で、中村氏は「ホルシミス効果(低線量の放射線は生物にとって有益な刺激となる)を支持する立場」です。武田氏の態度は例えば福島の農業者にとっては厳しすぎるとよく批判されます。一方中村氏の主張に従えば、基準はゆるくてよいという話になるのですが、あくまで科学の最新理論を語っているわけで、いわゆる「御用学者」ではありません。是非YOUTUBEで見ていただきたいのですが、二人は極めて理屈の通った議論をしています。科学的根拠については共通認識を確認し、(武田氏もホルミシス効果については認めている)その上で、ある立場に立てば武田氏の結論になるし、別の立場から見れば中村氏の結論になるという事が議論を通じて明らかにされます。ということは何について判断を求められているかに応じて、どちらの結論を採用すべきかわかるということ。どちらが絶対的に正しいかという話ではない。
 こう言う議論を重要な決定を下す議会等でやってほしい。原発賛成・反対とか憲法9条賛成・反対とかいう議論を聞いているとそういう気がします。まずベースとなる事実認識を共有していない(実にこれが一番むずかしい!)ために議論が上スベリをしてばかり。
 先ほどのTOUTUBEのコメント欄を見ると同じ現象が見て取れる。そもそも動画をUPした本人自体が「武田は風見鶏だ」と言っている。それに対して議論を理解してコメントしている人は非難されている。合議によって物事を決めていく際には、筋道を建てた議論の方が脇に押しやられて行く傾向があります。そのうち詳しくコメントしますが、私もよくこういう立場を経験するのでよくわかる!
 なのでこのシリーズの副題を付けるとすれば「どうしたら話し合いによって理屈の通った結論にたどり着けるか??」です。

<「理不尽」による苦しみをなくそう!>
 今日の昼ごはんをカレーにしようかラーメンにしようか?という判断に理屈は必要ない。(まあ屁理屈で決められなくも無いか?)理屈を知っている事を見せたいために理屈を言っても意味は無い。(まあそうしたいひともいるかも知れないが・・)理屈は理不尽を追い払うためにあるのだと思います。武田氏を見てそう思う。
 武田氏は「今の若者はかわいそうだ」という。生まれたときから「資源がもうすぐ無くなるので節約しろ」と言われ、「核燃料廃棄物は君たちが処理法を考えろ」と押し付けられ、大人の利益のために働き場所を外国に持って行かれる。そのため、武田氏は理屈を持って「資源は当分なくならない」「節約は無意味だ」と説明し、「企業はコストダウンよりも魅力ある製品開発をめざすべき」と主張する。
 またプラスチックゴミと普通ゴミを工場で一緒に燃やしてるにもかかわらず(本当ですよ!)、分別せよと言われて困っている老人(うちの母親もそうです!)のために「分別はかえって資源を浪費する」と援護する。
 このような「日本で暮らす善良な人々に対する愛情のために理屈を用いて武装する」のが氏の発言の趣旨かと思います。(ちなみに本人も自分で言ってますが「右より」人間です。原爆を投下したアメリカを嫌悪する主張は少し行き過ぎではないかと私は思います。)氏が一時間くらいの講演をすると、終わりの方でこのような価値観に基づいたお話をされます。メデイアに対する露出の仕方だけを見て武田氏を嫌悪されてる方も多いと思いますが、是非一度話をお聞き下さい。TV番組では時間が制約されすぎて真意が伝わっていないことがわかると思います。(例えばYOUTUBE武田邦彦20110902⑨筑後講演

<私が日々感じること>
 私の父親が私の歳くらいだった頃、農家の暮らしは非常に厳しい時代でしたが、社会的ストレスはずっと少なかったと思います。「今日も1日過ぎましたー」と(ため息ではなく)明るい声で一息つくのが父親のくせでした。やるべきことを誠実にやっていれば何とか暮らせました。しかるに今は「年金は自分で確認しろ」とか「ゴミはこうやって出さないと持って行きません」とか挙句の果ては「裁判に参加しろ!」とか言ってきます。役所の都合でパソコンを使わないといけない手続きがどんどん増えるので、しかたなくウイルス対策やソフトの更新を仕事の合間にやっていかないといけない。母親を連れて銀行へ行くと目の見えにくい母親に無理やりサインを強いらないと手続きができない。
 「こういう社会はおかしい」と思う。人が健康であるためには「食べるもの」(これは今回関係ないが)と「ストレスがないこと」が一番大事だと思う!自分が行動するのではなく「行動させられている」ことに違和感を感じる。人々のためのルールのはずが人々を窮屈にする。なぜこうなってしまうのか??といったことを武田氏の語り口とともに考えたいと思っています。