建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

58回目 比率6:4のむこう岸

58回目 比率6:4のむこう岸
      -多様性と安定性についてー

<比率6:4の話>

 前回、本年度の「社会意識に関する世論調査において「満足している(8.2%)」及び「まあ満足している(57.8%)」の合計が過去最高(60%)だったという結果に対して、現在社会制度や既得権益が守られていて、今の状態が続いてほしいという人達がそう回答したからではないかという説を紹介しました。その根拠の一つとして

正社員:非正規社員=60%:40%

という現実を紹介しました。これに類した数字をもう一つ挙げるとH26年の統計として全給与所得者において

年収300万円以上:年収300万円以下=60%:40%

というのもあります。貧困化が進み、この比率が逆転すれば、一気に社会は不安定になるだろうとお話ししました。
 実際、トランプ大統領の当選の要因として、中間層の貧困化が進み、特に白人の「負け組」が反乱した結果だと言われています。

<政権の安定性の話>

  さらに比率6:4のお話。

現与党(自民党公明党)が3分の2の勢力を獲得した第47回衆議院議員選挙の得票率

自民党公明党):(民主党+維新の党+社民党
=49.54%:30.67%
これもだいたい6:4です。

 あまり考えたくはないけれど、(でも可能性は高いと思いますが)与党が正社員、あるいは年収300万円以上の人達(=体制依存側と名付けます)の権益を守る政策を続け、その支持を得られれば、安定多数の議席を得られるという事になります。

 うーんこれは思い当たることが多々ありますねえ。トリクルダウン」なんかまさにこの考えによるものかも・・

2017年7月1日 - 安倍首相は東京都議選遊説で、聴衆の「 辞めろ」コールに対して「演説を邪魔する行為」と批判し、「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言って激高した。これは「こんな人たち」というのは、4割は無視してもよいという考えを裏付けているのではと思ってしまいます。

 でも6:4の微妙なバランスですからいつ逆転してもおかしくはないような気もします。

<一億総中流時代の安定性>

 1970年代によく言われた言葉に「一億総中流というのがありました。内閣府の「国民生活に関する世論調査」において自らの生活程度を「中流」とした者は何と約9割に達しました。(ちなみに「中流」というのは自らを「中の下」「中の中」「中の上」と評価した人の合計です。)

 この時代を私達の世代は子供として体験しました。多分うちの父親は「中の下」くらいに思っていたのではないかと思います。
 実際には地域的に所得格差はあっただろうし、本当は今より当時の方が貧乏だったと思います。でも当時は近隣コミュニテイーが今より濃厚で、(うちが農家だったこともありますが、)皆同じような生活をしているという実感があったのがあったという要因がまずありました。サラリーマンは終身雇用制のもとで「会社コミュニテイー」を形成し、一体感をもちながら働いていました。もう一つの要因は、経済が確実に成長していたので、自分も少しずつ豊かになりつつある実感があったことが、そう思わせたのではないかと思います。

 当時「一億総中流」という言葉は、どちらかというと、自らを皮肉る調子がありました。でも今考えてみると、そう思えることはとてもよい傾向だったのではと思います。なぜかといえば

その①:自分たちが社会の中心に位置すると(錯覚もあったでしょうが)思えた。

その②:一体感のあるコミュニテイーが存在したということは、「他人の問題」を同じ立場にある「自分の問題」としてとらえることができた。

<画一性と多様性>

 では、皆が同じという「画一的」な状況が良いのかと言えば今は「多様化」の時代です。この流れは変わらないだろうし、むしろ望ましい方向性ですね。
 でも悲しいことに「多様な人々」が皆で議論をして、望ましい結果を導き出すという方法論が見いだせていない。結果、人と違う意見を持った人は孤立する方向になってしまいます。
 ということは、6:4の4のほうが6に増えても、孤立していれば変化は起こらないことになってしまう!

 ということは、とにかく勝ち組にすり寄っていくことが、自分を守るには一番良い手段だということになってしまいますね。

 これでは希望を見出せなくなってしまいます。とにかく「負け組」というものが存在するのがよくありません。孤立化してもプライドをもって生きていける世の中をつくることが先ということなのでしょうか?

<おわりに>

 この文章は夏の初めに書き始めたのですが、「希望のある結論」が見いだせず、ズルズルと年の暮れになってしまいました。

  この間、衆議院議員選挙もありましたが、上の構図はまったく変わらなかった。むしろ上でお話したように、まさに野党が孤立化して無力になる方向になりました。

  「6:4の構図」を考え出した際、この社会の悲しい構造がわかってしまった気がしました。私は明らかに4の方に居て、6のほう(アメリカの大統領選挙では「エスタブリッシュメント」という言葉が用いられましたが、まさにその内容です。)を眺めている立場です。

 「平均給与が上がった」というニュースで「世の中が上向いている」と思うのは間違いです。6の方の人たちの給与が倍になって、4の方の人たちの給与が半分になっても「平均」は上がります。これは「格差」が広がったことになるわけで、そういう内容は統計的に表現する手段があるにも関わらず、あまり大きくは語られない。そういう様子を見ていると、なにか騙されているような気がして、気分がめいってしまう年の暮れであります。