建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

57回目 現在の社会に対して全体として満足していますか?

57回目 現在の社会に対して全体として満足していますか?
     -日本人の社会意識に見るヤレヤレな構造ー

<トランプ氏に喝采を送ってしまいそうな自分がいませんか?>

 アメリカのトランプ大統領北朝鮮に対して武力攻撃も辞さないという姿勢を表明している。これに対して日本の責任者が軽々しく「頼もしく思う」と発言するのは如何なものかと思いますが、一方、個人的には無責任に「やっちゃえ、やっちゃえ」と囃し立てようとする誘惑にかられることも確かですね。これは冷静に考えると避けなければいけない態度です。
 武器を持つと使いたい誘惑にかられる。これを他人が見ると、(攻撃対象が憎々しげに見える相手ならなおさら、)攻撃を期待してしまいそうになる。でもその結果は、何の罪もない人々に苦しみをもたらすというのが現実。先日実行されたアメリカ軍のシリア攻撃についても、命中率が半分くらいだったという報道もある。では命中しなかったミサイルがどうなったかは報道されません。どこかでとんでもない厄介をもたらしているかもしれない。
 2003年にアメリカがフセインを打倒するために行った戦争における民間人の被害者は推定数十万人にのぼるとも言われている。その事実はほとんど無視されている。人は自分に関係ない範囲では他人の痛みを無視できるという素地をもっている」というのが、今回のお話の第一の前提条件です。

<他人の不幸は幸福をもたらす?>

 東日本大震災の発生後、日本人の幸福度が上がったというデータがあるそうです。これに対して、同じような状況におかれた場合、欧米人の幸福度は下がる傾向にあるらしい。何となくわかるような気がしますが、そうであれば、日本人と欧米人の社会にたいする意識が異なるということですね。
 そういう場合に幸福度が上がるという人は、他人との比較の上で自分の幸福度を測る。他人が不幸になれば自分の位置が変わらなくても相対的に幸福度が上がるということですね。
 一方、幸福度が下がるという人は、社会は自分と一体であって、他人が不幸になれば、自分も不幸と感じるという話です。

 「日本人は、自分の幸福度を、他者との比較の上で感じる傾向がある」というのが第二の前提条件です。

内閣府の社会意識に対する世論調査の結果>

 4月9日に発表された内閣府の「社会意識に関する世論調査」において、社会に満足しているという回答が過去最高だっという報道がありました。これについて、不可解だということを前回「ポスト真実の生まれるところ」でお話ししました。やはり同様に感じる方たちが多いようで、社会学者さんたちがいろんなところで解説していました。その説明のひとつは、ストンと腑に落ちた! 

 もうすこし正確に把握しましょう。調査票を見てみると、この質問は、全部で15ある質問のひとつです。この質問の前には、「国を愛する気持ち」とか「地域とどう付き合っているか」とかいう質問があります。ちなみに調査員による面接調査です。このあたりの調査方法についてもバイアスがかかる原因となる疑いがありますが、とりあえず公正に調査が行われたという前提で考えましょう。
 質問は、今回のタイトルである、「現在の社会に対して全体として満足していますか?」という文章です。「満足している」と答えた人が過去最高の66%と報道しているマスコミが多いですが、内訳は「満足している」が8.2%で「まあ満足している」が57.8%ですこの合計が66%だというのが、正しい数字です。少し報道のイメージと違いますね。一方「満足していない」6%と「あまり満足していない」27.4%の合計が33.4%(≒33%)となっています。なので積極的に「満足」「不満足」と答えている人はわずかなのですが、ここでは「満足側グループ」66%「不満足側グループ」33%として話を進めます。

<なぜ満足側グループが優勢という結果になるのか?>

 ストンと腑に落ちたのは、中央大学の山田まさひろ教授の解説です。まず、「将来、社会がこういう姿になってほしい」という理想や希望があるならば、今の社会に対する不満点を多く認識しているわけですから、不満足度が高くなる傾向があるとのこと。これはとてもよくわかる。
   でも調査結果は逆の傾向を示しています。不満を持つ人は少数派で、「この社会は変わらなくてよい」と考える人が多数派らしい。
 では、「満足側グループ」に入るのはどういう人達でしょうか?それは、今現在社会制度や、権益にまもられているので、今の状態が続いてほしい考えている人達だそうです。
 ここで登場するのが「格差問題」。いろんな格差の問題がありますが、多くの人々が関係しているのが、非正規労働者問題ですね。

正社員:60%  VS  非正規労働者:40%

 これが今の現実です。非正規になることを恐れたり、非正規の人たちに自分の権利を渡したくないと考える今の正社員は、まさに上で述べた「満足グループ」に属します。

 今の日本社会における格差の拡大は、いまさら言うまでもない事実ですが、例えば非正規労働者とか下級老人とか子供の貧困とかに陥っていない人達が、今の社会制度や権益を変えてほしくないと答えたのが「満足側グループ」であり、66%くらいになるというのが現在の日本社会の構造であというのが教授の説明です。なるほどと思いました。

<質問をよく見てみれば・・>

 でもそもそも、質問文は「現在の社会に対して全体として満足していますか?」であるのに対して内容的には「自分個人の生活に満足していますか?」という質問と解釈して答えているということですね。わざわざ「全体として」という言葉を入れているのは「個人として」ではないという意味だと思うのですが。恵まれていない人に対しては無関心でいられる(先ほど述べた第一の前提条件)、自分が今恵まれていれば、他人より幸福だと感じる(先ほど述べた第二の前提条件)、と言う意識の結果として、こういう回答になるということでしょう。個人が社会全体を考えてもどうしようもないという無力感がそうさせるのかもしれません。
 私なんかは、社会のしくみの現実を知れば知るほど、矛盾が見えてきて、不満足が高まるのですが、そういう人間は疎まれるのがこの社会の構造なんですねえ。ヤレヤレ・・

<社会全体の安定性を考えるのは誰の役割?>

 高橋洋一氏は、多少景気がよくなっても天下り機関に国家予算が吸い取られていると指摘する。受信料でなりたっているNHK職員の平均給与は一千数百万にのぼるらしい。このまま制度や権益に守られている人たちが、それらを死守し続ければ、格差はどんどん開くでしょうね。ではだれがそのバランスをとることを考えてくれるのでしょう??

 

 今の政権の考え方は「日本を偉大にする」でありまして、一見勇ましく聞こえますが、これは上のようなバランスをとる方向性とは異なります。GDPを増やすためには、トヨタや三菱といった世界的な企業の収益があがればよいわけですから、そういうことには熱心に取り組む。トップ選手ばかりさらに強化すれば、日本として誇りが持てると考える。そう考えると平均以下の人たちは無視してもかまわない。そうやってどんどん格差が拡大する。トップの成績を多少下げても底上げをするという発想がなければ、バランスはとれない・・というのは算数でわかる程度の話なんだけど。

 

 こうして、今のところは、自分の利益が守られていると感じる人が、他人よりも相対的に幸福だと考えて、何となく社会に対して不満がないような結果になっている。でもそのうち、「満足側グループ」と「不満足側グループ」の数が逆転すれば、一挙に社会は不安定になるかもしれません。社会の安定を図るには、どうすればよいのでしょう?そもそも今が不満足であっても、将来に希望が持てる方がはるかに健全な社会であると思いますが、そのためには、どうすればよいのでしょうね?これは次回までの宿題にいたします。