建築にまつわるエトセトラ

蛙(かわず)の見る空

リブ建築設計事務所 主宰山本一晃のブログです。

61回目 今年(2018年)の台風にまつわるエトセトラ

61回目 今年(2018年)の台風にまつわるエトセトラ
     -「25年ぶりの勢力」から見えてくるものー

<25年ぶりの意味>

 2018年9月4日に大阪地方に来襲した台風21号は25年ぶりの「非常に強い」勢力の台風だったそうです。被害については、後程コメントしますが、大きく言って①25年のうちに劣化した部分、②新しくても脆弱だった部分に被害を受けています。
 この25年の歳月の意味はどちらの場合にも影を落としています。この25年で社会は大きく変化しましたよね。25年前は私は33歳で、働き始めて10年弱の時期でした。

 まずは、もっとさかのぼって私が子供の頃の話。50年ほど前の事になってしまいます。私は岸和田市の山間部のみかん農家の生まれです。この地方では「錣(シコロ)葺き」と呼ばれる瓦葺きの農家が集落を形成しています。
 台風が近づくと、皆が外に出て、屋根の棟を針金で固定したり、窓に板を張り付けたりしました。逆に言えば、そういう準備をする余裕があった時代でした。「家族で家を守っていた」時代とも言えます。

 この25年で、過疎化が進み、御老人の一人暮らし世帯や、空家がPhoto
ずいぶん増えました。自分を最後にこの家に住む人間が絶えるという人も多くいます。このような事情が重なって、メンテナンスが行き届かず、劣化の進んだ家が被害を受けています。屋根瓦を飛ばされた家が多数出ましたが、同じ条件にあっても、あるいは多少古くても、メンテナンスができてる屋根は大丈夫でした。これが先ほどの①の実情です。
 ちなみに風の被害は山間部より沿岸部のほうが、はるかにひどくて、写真は沿岸部の事例です。

<これは劣化じゃなくって手抜きでしょ!>

 他方、新しいのに被害を受けてる構造物(上記②)もあります。

 この25年はコストダウンが致命的な意味を持つ時代でもありました。思えば、1970年頃住宅戸数が世帯数を上回り、住宅不足が解消するとともに、「これからは大量供給から質の時代」と言われた。しかしながらこの流れは飽食の時代へと移り変わり、1991年にはバブル崩壊とともに2010年まで続く「失われた20年」へと急旋回することになった。安価な外国製品と競争するために「質」より「コスト」優先が求められた。そのひずみは今いろんなところで表に顕出されてきました。例えば、神戸製鋼のデータねつ造とかですね。

 次の写真は、とあるホームセンターの看板。10年ほど前に開業しPhoto_2
たお店です。勝手な判断は軽率かもしれませんが、どう見ても大きさに対して柱の鋼材の断面が小さすぎると思いますよね。多分厚みは5mmもないように見えます。周辺では、もっと古くても倒れてない看板も多くあります。

 上記の看板は、風圧を受けて、柱が折れています。例えば割り箸を地面に突き刺して、先端に水平方向の力を加21
えます。割り箸が折れる(=柱が折れる)のは、地面に突き刺した基礎の部分はしっかりしてるのに、上部構造が弱かったということですね。

 次は、上部構造ではなく、基礎部分が弱かったという事例です。コンクリートブロックでできたネットフェンスの基礎が壊れています。この事例は建築関係者としては、衝撃的です。
 本来フェンスメーカーは、コンクリートの基礎を求めていますが、お手軽で安価なコンクリートブロックで代用する事はほとんど常識的に行われている。特にこの事例のようにネットフェンスで高さも1M程度であれば、風圧の影響はほとんどないと考えてしまう。Photo_3
 しかし今回の台風では、瞬間的には秒速60M程度の風が吹いたと考えられている。これは時速にすれば200KMを超える速度です。F1レースの車のように時速300KMに近づく高速になれば、空気は急激に抵抗が大きくなり、「壁」になると言います。風速が大きくなれば、常時では考えられない力が働くことの証左であり、建築関係者が教訓としなければいけない事例です。

<植樹した樹木は要注意!>

  樹木もたくさん倒れました。まずは、街路樹の事例です。写真でおPhoto
分かりの通り、根こそぎ倒れています。これは上記のフェンスと同じで基礎部分が弱かったという倒れ方。もし基礎がしっかりしていれば、幹や枝が折れます。
 造園の専門家によれば、自然に育った樹木は、上に伸びれば、その分下方向に根を伸ばし、横に枝を広げる樹木は横方向に根を張るという。
 そういう見方をすれば、この街路樹は、根の深さがあまりに浅過ぎ!ほとんどちょこんと置いてるだけの状態です。風で倒れるのは当たり前ですね。これを台風のせいだけにして良いものか??
 本来ならば、もう少し小さい木から育てて大きくするべきだったのでしょうね。
 建物を建てる際に「緑化基準」を満たす必要があるのですが、最近の緑化条例は背の高い木を植えれば、面積を稼げる計算になっています。ますます「風で倒れやすい植樹」が増えることになるでしょう・・

<停電が怖い!>

 その倒れやすい街路樹には、大体において電線がからんでいまPhoto_2
す。樹木に被害が出れば、電線も切れる。これはとても悩ましい問題ですね。
 超高層マンションの30階に住んでる知り合いは、あちこちで電線に火花が飛び散っているのを見下ろしていたそうです。大阪では、あちこち「まだら状」に停電している地区があって、長いところでは一週間続きました。たちの悪いのは、この停電が果たして1時間後に復旧するのか、ずっと続くのか、全く電力会社から情報が提供されなかったという事。また、北海道地震による停電は、連日報道されて皆が原因を知ることができたのに、(しかも一日余りで復旧した。)こんなに長い間復旧しなかった大阪の停電は、ほとんど原因の追究がされていないのがとても不思議です。これは関西電力の差し金か?

 大阪の人たちは、停電は何日も続くかもしれないということを思い知ったので、例えば支払いを電子決済に頼るという事は、しないと思います。また、ガソリン車なので、停電してないところまで移動できたが、これが電気自動車の充電できてない時点ならば、どうしようもなくなっていました。大阪ではEV車が売れなくなったのではと思う!

<最後に自慢話を>

 私の設計した実家は、FRP製の格子でできた雨戸を付けました。Photo_3
写真は閉めた状態ですが、これは全面開放できます。閉めた状態で外も見えるし光も入ってきます。今回の台風では、これがとても役に立ちました。

 かつて住宅を設計した住宅の施主からも相談されたのですが、通常、雨戸やシャッターは主に「防犯」の観点から設計し、例えば泥棒の入ってきそうにない2階の窓には付けてなかったのですが、これからは風で物が飛んでくることも考えないといけませんね。